子どもの権利保障の観点から新型コロナウイルス感染症対策を
―遊びと文化活動の保障をめぐってー
2020年4月6日
子どもの権利条約31条の会
●緊急事態に直面して
新型コロナウイルスの感染が内外に広がり、事態の収束に向けて先が見えない状況が続いている。子どもたちの命と健康を守るために、医学的知見と人間の知恵を結集して、コロナウイルスの感染拡大防止に立ち向かわねばならない時である。
2月27日に安倍首相の独断で小中高校、特別支援学校の全国一斉休校措置が要請され、3月2日から休校が開始されて春休みを迎えた。3月24日、文部科学省が「小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校における教育活動の再開等について」の通知、3月26日、「教育活動の再開等に関するQ&A」を出し、学校の再開が課題となっている。しかし、東京での感染者拡大に、東京都では都立学校の「春季休業の終了日の翌日から令和 2 年 5 月 6 日までの間、臨時休業」を決め、「区市町村教育委員会に対しても、都立学校の取組を参考として、感染拡大防止の取組への協力を強く要請」した(4月1日「今後の都立学校における対応について」)。全国を見るなら、4月からの学校の再開、入学式を簡略に開き、その後は時差登校など、それぞれの教育委員会の判断で学校再開が模索されている。学校再開を毎日の授業時間を増やすことや長期休暇の短縮などによって子どもの生活のバランスを崩すものにしない視点も必要である。
全国一斉休校措置開始から一か月あまり経過し、感染の拡大が進む中で、いま様々な問題が噴出しており、長期にわたる取り組みを覚悟しなければならない時にある。
●学校の休校をどうとらえるか
それにしても、先の全国一律に学校を休校にするという措置は、あまりにも唐突で子どもの生活と発達に関する権利保障への配慮を欠いた対応だったと言わざるを得ない。
ウイルス感染の広がりには地域的違いもあり、学校の休校については、本来各地域・各学校の状況をふまえて自治体の教育委員会が判断する権限をもっており、専門家会議の医学的な見解をふまえ、各自治体の教育委員会や学校管理者・保護者の声を集めて、慎重に判断すべきことであった。
休校中の子どもの居場所としての役割を丸投げされた学童保育の現場は、その活動上子どもたちと指導員の濃厚接触は避けられず、現在の施設条件も劣悪であり、ウイルス感染のリスクは学校以上に高いとも考えられる。政府の一斉休校措置の矛盾と問題点が鋭く現れている。
コロナウイルスの感染リスクを低減すること、子どもたちの命と健康、安全を第一に考えること(生存権の尊重)は、最も重要なことだが、学校が子どもの生活と発達の権利保障に果たしている役割を《多面的・複眼的に捉える視点》を見失うのは根本的な間違いである。
休校措置は、何よりも子どもたちの学習権を失わせ、教育を受ける権利を奪うことになる重大な措置である。学校には、保健室や給食があり、子どもの福祉を守る場でもあり、特に虐待的・放任的な環境にいる子どもにとっては重要な保護機能を持つ「安全地帯」である。また学校には、校庭や体育館や図書室があり、子どもの遊び仲間やスポーツ・文化活動を通じて子どもの発達と文化の権利を保障する場所でもある。
政府・自治体は新型コロナウイルス対策を進めるにあたって、常に子どもの権利を守る視点を忘れてはならない。子どもへの感染を防ぐこと(生存権の保障)を当然の前提とし、同時に子どもの生活権、学習権、遊び・文化権、自治権・社会参加権を保障するために知恵と創意を結集することが求められる。
●子どもたちの生活と文化を守る
子どもの遊びと文化の権利の重要性に注目してきた「31条の会」は、新型コロナウイルス感染症対策としての一斉休校措置によって、子どもたちの交遊関係が遮断され、「子どもの主食」である遊びが禁止・抑制される事態が全国的に生じていることに対して、子どもの権利侵害が政策的に生み出された危機的事態であると捉えている。
学校の休校とともに、地域の子どもの居場所である児童館や冒険遊び場などの閉館・休止、子どもの生命をつなぐ場である子ども食堂の自粛要請・中止、子どもの遊びに関わるNPOの活動停止、鑑賞教室や地域文化団体・劇団主催の演劇・音楽など子どもの文化・芸術公演の中止・無期限の延期などが相次いでいる。今までの公的支援の弱さが改めて露呈し、子どもNPO、児童劇団などの文化・芸術団体の存続が危機的状況にあり、フリーランスのアーティストの多くが生活の困難に直面しているにもかかわらず、積極的な支援・経済的補償は打ち出されていない。子どもたちの文化・芸術への参加の権利が危機にさらされているのである。
学校休校に伴って子どもが地域の中で過ごす様々な場所の活用・連携・役割分担など、総合的にきめ細やかな対策を講じなければならない。そのための拠点、地域対策本部などをもうけることも必要である。また、親・保護者や教師とともに、子どもの遊び・文化権の保障のために学童保育・児童館職員、フリーランスのアーティストやスタッフなど子どもを支える大人、子どもNPOや子どものための文化・芸術団体への経済的支援を含む緊急の支援に至急取り組むことが必要である。
●子ども・市民の声を聴き、知恵を出しあい学び合おう
対策にあたっては、子ども・市民にわかりやすく情報を伝えるとともに、その声を聴き、区市町村・都道府県・国の対策検討の各段階で子ども・市民との対話を重視し、必要に応じて対策検討の場に子ども・市民の代表を加えることも提案する(子どもの権利条約第12条子どもの意見表明権(子どもの聴かれる権利)、国連子どもの権利委員会総合的解説第12号「子どもの聴かれる権利」“The right of the child to be heard”など参照)。
こうした緊急事態のなかで、いち早くいくつかの学会や市民NGO/NPOが、子どもたちの遊びや文化活動の重要性を指摘し、その機会の提供を呼びかけたことに注目し、それら取り組みに賛同し、推奨したい。そこには子どもの権利条約第31条の視点とその具体化の課題がリアルに示されており、今後これらの経験をじっくり検討する必要があると考えているが、以下、取りあえず、諸団体の見解や声明が掲載されたHPをリストアップしておく。
いま緊急に必要なことは、全国的全世界的に拡大するコロナウイルス感染状況のニュースに接して不安の中にいる子どもたち、学校の一斉休校や再開のなかで不安定な生活を強いられ、仲間たちとの安心・安全な交遊と活動が制限されている子どもたちに、コロナウイルス感染予防のための知識と行動を丁寧に伝えるとともに、同時に楽しい生活と仲間との交流を工夫し、実現しあっていく意欲と希望を励まし応援し、ともに取り組んでいく大人社会の協力・連帯と行政の積極的姿勢である。
いまこそ<子ども最善の利益>実現の視点にたって、さまざまな知恵を出しあい取り組みを交流し学び合っていこう。
「子どもの権利条約31条の会世話人」
増山均(早稲田大学名誉教授)
山下雅彦(東海大学名誉教授)
齋藤史夫(東京家政学院大学准教授)
神代洋一(NPO東京少年少女センター理事長)
北島尚志(NPOあそび環境Museumアフタフ・バーバン理事長)
大屋寿朗(子どもと文化のNPO Art.31代表)
中村興史(子ども白書編集委員)
連絡先:大屋寿朗(子どもと文化のNPO Art.31代表)